牛頭馬頭

キッチンドランカーのほろ酔いレシピ帖

台湾にかぶれて麺線作りに挑戦してみた

台湾に『麺線』という料理がある。

とろみが効いたかつお節風味の出汁にソーメンのような細麺が入った料理でトッピングに豚モツや牡蠣や香菜(パクチー)が乗ることが多い。街角の路面店や屋台などで売られており台湾の人はおやつ代りに食べたりもするらしい。

去年ネットで知って「これは絶対に好きなヤツだ」と直感してから約半年、6月に旅行で台湾に行きようやく麺線と対面することができた。

 

この台湾旅行には自分の家族と友人一家も同行していて、台北市に着いた日の夜、皆で「ディンタイフォン」という小籠包の有名店に晩飯を食べに行った。

その後「東門」という街をウロウロと散策していた時に「志明紅麺線」という麺線屋を見つけた。店先ではおじさんがあの麺線の鍋をかき混ぜている。

 

 

小籠包とビールをやっつけた直後だったので家族と友人は満腹気味で、麺線屋を発見して一人で興奮していたら、皆から「食べてくれば」とありがたいお言葉を頂戴し、自分だけ別行動をしてその麺線屋に突入した。

 

 

店先に並んでいるメニューを見ると麺線のサイズは大/小の2種類。

「小」を注文した。45元(日本円で約170円)だった。

 

みんなにも味わってもらおうと一度はテイクアウトしたのだが雨が降っていて食べる場所がなかったので一人店内に戻って食べることにした。

 

 

店のおじさんに「箸をくれ」と頼んだら「レンゲだけで食べるんだ」というジェスチャーで返された。麺というよりはスープ感覚の料理なのかもしれない。 

 

 

言われた通りレンゲで一口たべてみると、カツオ節をベースに豚の腸とパクチー、その他のスパイスの風味がふわっと効いていて「これが麺線かぁ」という他に説明ができない味わい。そこに柔らかい細麺が泳いでいるのだが、おそらく長い時間煮込まれているのにも関わらずヌチャッと崩れずに麺としての形を保っている。表現が難しいが口の中で「しわっ」とした存在感を感じる。独特の出汁の味に不思議な麺の食感。なんなんだこれは。

まぁ、一言で言えば期待していた通り美味い。台湾に来てよかったと思った。

  

「こっちもおすすめだから食べてみて」と、おでんのような食べ物(写真右の黒っぽいやつ)を店のおばさんに勧められた。おばさんはそれを「てんぷら」と呼んでいた。腹腹に余裕がないから麺線の小サイズを頼んだのだが「え、てんぷら?」と興味に負けて買ってしまった。甘辛いソースがかかったさつま揚げのような味で、これはこれで美味しかったが全部は食べれなかった。結局「てんぷら」はホテルに持ち帰り、揚げ物好きの妻の夜食になった。テイクアウトを選んでよかった。

 

ところで麺線をすすっていると小学生中学年位の少年が1人で店に入ってきた。店の親父「今日は小でいいか?」、小学生「うん、小で」みたいな会話(中国語なのでわからないが多分そんな内容)のあと、出された麺線をサクサクッと食べて帰っていった。あんな小さい子が常連客なのか。台湾は外食文化が根付いていると聞いてきたがこういうことかぁ、としみじみ納得した。

 

麺線が気に入ったので滞在中にチャンスがあれば他の麺線屋にも行ってみたかったが、結局二泊三日の旅行中に訪問できたのは東門の一軒だけだった。

 

日本に帰ってから調べてみると東京近辺にも麺線を出す店があることが分かった。(もっと早く調べればよかった)

自分が調べた限りでは新橋、二子新地、新宿に1件ずつある。このうち新橋の「台湾麺線」と二子新地の「麺線屋フォルモサ」には足を運んでみた。台湾麺線はカツオ節が強く効いたパンチがある味、一方麺線屋フォルモサは複数の旨味や風味が複雑に絡み合った味に仕上がっていて、それぞれに特徴があってうまかった。

そして、どちらの店も「紅麺線」と呼ばれる麺線専用の麺を台湾から輸入して使用しているらしく、あの独特の食感を味わうことができた。

 

この「紅麺線」の製造工程を調べると、日本の「そうめん」とほぼ同じらしいのだが、麺を延ばしてから「蒸して干す」というの工程が入る。これが決定的な違いらしい。

ふーん、それであの食感が生まれるのか・・・。

気になって仕方がなくなったので自分で麺線づくりを試してみることにした。

 

 

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まずはそうめんで試作

まずはプロタイプってことで日本のそうめん界の代表格「揖保乃糸」で作ってみた。

 

 

台湾と東京で食べた味を思い出しつつ合わせる出汁は台湾で買った醤油と沙茶(後述)、家の冷蔵庫にあったかつお節、生協の出汁パック、ウェイパー、オイスターソースを組み合わせて適当に。具は青ネギと豚肉で代用。

適当なのに台湾から連れてきた調味料のおかげか割と近い味になった気がする。

 

麺は本物より太いが食べ始めはなんとなくそれっぽい食感。しかし時間が経つとズルズルにやわらかい「にゅうめん」になった。うーん惜しいけどこうじゃないんだよな。

やっぱりそうめんとは似て非なるものらしい。紅麺線、一筋縄ではいかないぜ。

 

紅麺線を作る

というわけで天気がよい週末の日を選んで(干すので)紅麺線作りに挑むことにした。

市販のそうめんの作り方を調べるとこんな感じ。

 

乾麺については小麦粉に食塩を混ぜてよく練り、綿実油などの食用油、もしくは小麦粉やでん粉を塗ってから、よりをかけながら引き延ばして乾燥、熟成させる製法で『手延べ干しめんの日本農林規格』を満たしたものについては「手延素麺(てのべそうめん)」に分類される。近年では手延べそうめんも大幅に機械化が進んでいる。小麦粉に食塩と水を混ぜてよく練った生地を帯状に細く切って乾燥させる製法のもので機械にて製造しているものは「機械素麺(きかいそうめん)」に分類される。

引用元:素麺 - Wikipedia

 

「手延素麺」も魅力を感じるが、熟練の技術が必要される。うまくできる自信がまったくないので、使い慣れたパスタマシンを使いラーメンのように麺帯にした上で細く切って作る機械素麺の作り方を参考に作ることにする。

 

うどん用の日清の中力粉600gと特ナンバーワン200gをミックスした。加水率は45%、塩5%で。

 

 

パスタマシンで水回しして薄い麺帯にした後、1mmと1.5mmに切り出す。紅麺線は太さがまちまちだったので2種類の太さを混ぜることにした。

 

 

できた麺を1晩寝かせてから、くっつかないようサラダ油をまぶして蒸す。

蒸し時間はまったく見当がつかなかったのだが、勘で4分とした。

せいろがわりに使っている圧力鍋の容量が少ないので何回かに分けて蒸した。

 

 

蒸し終えた麺はアルファ化して透明感がある。色は白いままだ。

 

 

干し網にキッチンペーパーを敷いて、蒸し終えた麺から順に干し網にその上に麺を並べていく。

麺がくっつきやすくなっているのでサラダ油をまぶして都度ほぐす。かなり面倒な作業だ。「俺は何やってんだろうか、これでいいんだろうか」と心が折れやめたくなったが、ダークサイドに落ちないよう無心で黙々と作業を続けた。

 

 

全方向型レーザーのような鋭い日差しが降り注ぐベランダの物干し竿に吊るして干す。

夏の青空と俺の紅麺線。半日ほど干したらカピカピになったので完成とした。

 

 

乾燥させた麺はこんな感じでわりと白い。写真で見た紅麺線はもっと茶色がかった色だったはずなんだが。塩だけじゃなくかん水とか使ってるのかな?もしくは干し時間がたりなかったのだろうか・・・。

ま、色はそこまで気にするもんでもないだろうし作り直しは面倒だからこのまま使おう。(この判断が後の結果を左右することになる)

 

 

出汁を作る

とりあえず紅麺線は完成した。次は出汁を作ろう。

まずは豚背ガラ、鶏ガラ、鳥のコミガラ(今回買ったのは主に大腿骨部分)を計3キロくらい用意してベースとなる動物系スープを作る。ガラはハナマサと川崎北部市場で買ってきた。

 

 

10分程下ゆでし、水で洗ってゴミを落としてから寸胴にガラを戻し水6リットルを入れて中火でふつふつと。

 

 

ネギ、玉ねぎ、ニンジン、ショウガ、にんにくの香味野菜も放り込んだ。

今回は4時間炊いてベースとなるスープは完成とした。

スープ漉しで漉しておく。

 

 

次に乾物系素材を準備する。

メインとなるカツオ節(花カツオ)をふたつかみ、

出汁パック1袋分の中身(鰹節、煮干し、昆布、しいたけ、あじ)、

 

 

そして干しエビ10匹。これら全部をフードプロセッサーにかけて粉末状にしておく。 

 

 

 

仕上げる

ここからは一気にいきます。

完成した豚+鶏ガラスープを約1リットルほど手鍋にとる。これでだいたい3人前かな。

 

 

紅麺麺はそのままだと塩気が強いので、予め2分ほど熱湯で茹でてから湯を切ってガラスープにイン。(後で考えたら麺は一番最後に入れたほうがよかった)

 

 

粉末状にした乾物素材をイン。

 

 

ざばぁっと。

 

 

次に調味料で味を整えていく。

秘密兵器は台湾のスーパーで買ってきた調味料たち。

 

秘密兵器その1、醤油。

醤油は2種類買った。左側は黒豆蔭油という黒豆から作られた醤油で砂糖が入っていて甘い。台湾で普通に使われる醤油らしい。右側のは老抽醤油というもので黒豆の他に普通の大豆や調味料も入っているっぽい。どちらも、舐めてみるとみたらし団子のタレに似ている気がする。甘くてとろみがあって煮物に使うとコクが出そうな味。

 

 

老抽醤油は別鍋で作っていた魯肉飯(ルーローハン)に大量に使ってしまい、残りが少なかったので黒豆蔭油だけ使用。小さいおたまで2杯入れた。

 

 

秘密兵器その2、「沙茶醤」(サーチャージャン)

魚介風味のバーベキューソース。妻によれば少し入れるとなんでも台湾っぽい味になるという魔法の調味料。ただしクセが強いので分量を間違うと他の風味をかき消して全ての料理が「沙茶醤味」になるという危険性も持ち合わせている。使い方には注意が必要だ。

ということで今回は隠し味として小さじ1だけ使用した。

 

 

続けてオイスターソースを大さじ1、酒を大さじ1加えて、味見をすると醤油の味が丸すぎたので濃口醤油と塩で調整した。

味が決まったら水で溶いた片栗粉で軽くとろみをつける。

最後に塩とニンニクとショウガで下ゆでしておいた豚の小腸をどばっと入れて軽くかき混ぜて完成とした。

 

 

器にもって、豚腸、香菜(パクチー)、ラー油、すりおろしたニンニクをお好みで乗せて白コショウをパラリと振りかけて完成。

 

 

レンゲで一口・・・

 

おお、出汁はかなり麺線してる!

 

でも麺の食感が決定的に違う!!!

そして時間が経つにつれ、麺がどんどん延びて太くズルズルになり切れる。

揖保乃糸の方がまだマシだったかも。一番手間ひまかけたのに、なぜだ。

 

 

「何が違ったんだ・・・」と落ち込みつつズルズルの麺をすすっていたら、珍しく妻にはハマったようで「うまいじゃん」とお代わりしていた。マジか。

ちなみに妻は本物の麺線を一度も食べたことがない。素直に喜べない。

 

まぁ出汁は我ながらかなりいい線いっていたと思う。先入観がなかったら「少し変わったにゅうめん」位に受け入れられるのかもしれない。

 

味に飽きたら、烏酢(読みはウースー?)という、調味料を入れて味変する。これは麺線屋の卓上に置いてある(すくなくとも自分が行った3軒にはあった)調味料で味はすっぱいウスターソースだったので自分で「酢」と「ウスターソース」を5対5で割って作った。

 

 

長々と書いたが、今回の麺線作りは合格点から程遠い結果となった。

紅麺線だけあって赤点ならぬ紅点である。課題しか残っていない。

 

麺が水を吸って膨れて伸びてしまう点。まず、これを何とかしないと理想の麺線には近づかない気がする。干したときに麺が茶色く変色しなかったのも気になる。

敗因として考えられるのは以下か。

 

●麺の蒸し時間が足りなかった

 →蒸し時間を延ばす?

 

●麺の乾燥時間が足りなかった

 →もっと長い期間乾燥させる?

 

●表面に塗り付ける油が足りない

 →もっとたくさん塗る。

 

●小麦と塩以外の何かが必要

 →かん水?

 

また、調べていくと出汁にエシャロットやタケノコを使うレシピもあるようで選択肢は無限。長い麺線ロードは始まったばかりだ。試行錯誤の旅は続く(かもしれない)。

でも買ってきた醤油がもう残り少ないので日本で買えるか調べないとだなぁ。

てかできればもう一度台湾に行って調味料と一緒に本物の紅麺線を買いたい。

 

今回、麺線と一緒に魯肉飯(ルーローハン)も作ったのだが、麺線の話が予想以上に長くなったので後日別記事にしてアップしようと思う。

 

 

※7/21日、魯肉飯の記事をアップしました。

 

最後に黒豆蔭油老抽醤油沙茶醤の原材料ラベルを参考までに載せてしておく。(自作する人いますかね)

 

黒豆蔭油

無添加っぽい。甘くて丸い味。

 

老抽醤油

こっちは脱脂加工大豆がメインで添加物も色々使われている。味はややとがってるかな。

 

沙茶醤

魚乾っていうのがわからん。干しエビとカレイという噂もあるがどうなんだろう。

 

 

お粗末様でした。

 

 

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